デッカレコード録音の女性ヴォーカルをユニバーサルビクター社がCD化した、『女性ヴ
ォーカル・コレクション〜エレガンスへの誘い〜』のライナー・ノーツに、映画評論家の
細越麟太郎氏が「Songs Cafe」という表題で痛快なコメントを寄稿している。
今回は、ペギー・リーの「Black Coffee」へのコメントをご紹介しておく。
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コーヒーにはちゃんと色がある。コーヒー色という色だ。コーヒー独特の深い褐色は、そ
れだけであの香りたかい風味を感じさせてくれる。“ブラック・コーヒー”という言葉を
このレコードで初めて知った時、まだジャズ喫茶に通い始めた学生の頃だったので、本気
で、“黒いコーヒー”があるのかと思ったものである。しかし、ペギー・リーの唄は心の
中にブラック・ホールのように開いた失恋の空洞を唄ったもので、コーヒーに砂糖を入れ
ないで飲むようなタフな飲み方だと知ったのは、それからしばらく後のことだった。アメ
リカン・コーヒーのように薄めたものならいいが、エスプレッソのように黒濁した濃縮コ
ーヒーにシュガーも入れないで飲むというのは勇気がいる。激しい失恋の痛手は薬なんか
じゃ治りっこない。こうして甘味を完全に抜いてコーヒーの苦味を味わってこそ、ひとは
恋の本当の甘さと貴さに気がつくのである。そしてこの一杯で、人はおとなになる。
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さて、美味しいコーヒーを飲みながらジャズでも聴こうかな♪♪